ユウキは、祖父の古い屋敷を整理している最中に、埃まみれの鍵を見つけた。その鍵には、「地下図書館」と刻まれている。屋敷の地下には何もないはずだと聞いていたが、好奇心が彼を突き動かした。
翌日、祖父の書斎を調べていると、壁に小さな鍵穴があるのを見つけた。鍵を差し込むと、ガチャンと音を立てて壁が開き、階段が現れた。暗闇の奥に続くその階段は、長い間誰にも踏まれていないようだった。
懐中電灯を片手に進むと、ユウキは広大な図書館に辿り着いた。棚には無数の本が並び、どれも奇妙なタイトルばかりだ。例えば、「存在しない日の新聞」や「決して開いてはいけない本」といったものがあった。中でも彼の目を引いたのは、「未来の物語」という薄い本だった。
興味を抑えきれず、その本を開いてみると、自分の人生の出来事が詳細に書かれているのに気付いた。過去の出来事から、現在の瞬間まで正確に記されている。そして最後のページには、まだ訪れていない未来の出来事が書かれていた。
「地下図書館の鍵を開けたことで、選択肢は一つしかなくなった。」
そう書かれていた次の瞬間、部屋の奥から誰かの足音が聞こえてきた。
「本を開けてしまったのか。」低く響く声とともに、黒いローブをまとった老人が現れた。その顔はどこか祖父に似ているが、明らかに違う何者かだった。
老人は続ける。「この図書館の本は、観察するだけのものだ。お前は未来を見た。それは禁忌だ。」
ユウキは後ずさった。「何をすればいいんですか?」
「お前の未来は、ここに留まることだ。」そう言うと、老人は指を鳴らし、図書館の扉が重々しく閉じられた。
ユウキは抵抗しようとしたが、扉はびくともしない。突然、彼の手に握られていた「未来の物語」の本が光を放ち、ページがすべて白紙に変わっていった。図書館の本棚もまた、全ての本が次々と空白になっていく。
「お前がここにいる限り、未来は書かれ続ける。だが外に出れば、すべてが消える。」老人は微笑んだ。「選べるのは、自分で未来を書き続けるか、空白の未来を受け入れるかだ。」
ユウキはその選択肢に震えながら、本を抱きしめた。そして自分の運命を握ることになる長い長い年月が始まった。
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